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神戸地方裁判所 昭和61年(行ウ)12号 判決

相生市那波野3丁目7番37号

原告

西川つる

右訴訟代理人弁護士

吉川武英

相生市垣内町2番地45号

被告

相生税務署長 石井清市

右指定代理人

下野恭裕

外4名

主文

一  被告が原告に対して昭和57年7月13日付でなした昭和57年分所得税の再更正処分のうち分離長期譲渡所得金額42,040,500円を超える部分及びこれに伴う過少申告加算税の賦課決定処分を取消す。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを50分し,その49を原告の負担,その余を被告の負担とする。

事実

第一申立

(原告)

一  被告が原告に対して昭和59年3月8日付でなした原告の昭和55年分所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分並びに同年7月13日付でなした昭和57年分所得税の再更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(同年2月8日付でなした同年分所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を含む。)はこれを取消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

(被告)

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第二主張

(原告)

〔請求原因〕

一 本件各処分の経緯

原告の昭和55年分及び昭和57年分の所得税についての確定申告に対して,被告は各更正,昭和57年分についての再更正及び各過少申告加算税賦課の決定をした。原告の確定申告,これに対する被告の各更正,昭和57年分についての再更正,賦課の各決定,原告の異議,国税不服審判所長の審査裁決の経緯は,別表1,2記載のとおりである。

すなわち,被告は,原告の昭和55年分の長期譲渡所得金額を31,702,543円,これに対する所得税額を6,282,400円,過少申告加算税を253,100円とする更正並びに過少申告加算税の賦課決定をし,原告の昭和57年分の長期譲渡所得金額を43,040,500円,これに対する所得税額を8,756,200円,過少申告加算税を143,500円とする再更正処分並びに過少申告加算税の賦課決定処分をした(以下,右各更正及び再更正を「本件各更正」と,右各過少申告加算税の賦課決定を「本件各決定」といい,一括して本件各処分という。)。

二 しかし,被告がした右各更正のうち,確定申告に係る所得額を超える部分は,いずれも以下のとおり原告の所得を過大に認定した違法なものであり,したがって,本件各更正を前提としてなされた本件各決定も違法で,よって,本件各処分は取り消されるべきである。

1 原告は,別紙物件目録記載の不動産の譲渡により昭和55年に40,000,000円,昭和57年に47,600,000円の収入(以下「本件譲渡収入」という。)があったが,この不動産譲渡は,別表5記載の債務を履行するための資産処分であるところ,これらの債務は,訴外西川商事有限会社(以下「訴外西川商事」という。)が主債務者で,原告はその保証人としての債務を履行したものである。

その後,訴外西川商事は倒産し,この履行による求償権を行使することができないので,右保証債務の履行分は,所得税法(以下単に「法」という。)64条2項により回収することができない分として譲渡所得の計算上なかったものとみなし,本件譲渡収入から控除されるべきである。

2 控除額は,別表5の保証債務弁済額欄記載のとおり,昭和55年分が24,632,310円,昭和57年分が44,265,958円である。

(被告)

〔請求原因に対する認否〕

1項,2項中,原告の不動産譲渡による収入,原告の確定申告,被告の本件各処分については認めるがその余は争う。なお,原告の分離長期譲渡所得金額の計算は別表3,4のとおりである。

〔主張〕

一 被告は,原告の昭和55年分及び同57年分の譲渡所得金額,その計算根拠並びに本件各更正処分等の適法性について次のとおり主張する。

1 原告の昭和55年分の譲渡所得金額及びその計算根拠について

(1) 原告の昭和55年分の長期譲渡所得金額は,次表のとおりであり,その範囲内でなされた更正処分は適法である。

区分

金額

①譲渡価額

40,000,000円

②取得費

2,000,000円

③譲渡費用

10,000円

④必要経費合計(②+③)

2,010,000円

⑤特別控除額

1,000,000円

⑥分離長期譲渡所得金額

36,990,000円

(2) 被告が原告の昭和55年分の長期譲渡所得金額を右のとおり計算した根拠は,以下に述べるとおりである。

(一) 譲渡価額

原告は,昭和55年7月2日,訴外北文土地株式会社に対し,別紙物件目録記載一の土地を40,000,000円で譲渡した。

(二) 取得費

租税特別措置法(以下「措置法」という。)31条の4(長期譲渡所得の概算取得費控除)の規定により,原告の譲渡価額に100分の5を乗じたものである。

(三) 譲渡費用

原告が訴外北文土地株式会社との間で作成した売買契約書に貼付した印紙代10,000円。

(四) 特別控除額

措置法31条1項2号に規定されている長期譲渡所得の特別控除額である。

2 原告の昭和57年分の譲渡所得金額及びその計算根拠について

(1) 原告の昭和57年分の長期譲渡所得金額は,次表のとおりであり,その範囲内でなされた更正処分は適法である。

区分

金額

①譲渡価額

47,600,000円

②取得費

2,380,000円

③譲渡費用

320,000円

④必要経費合計(②+③)

2,700,000円

⑤特別控除額

1,000,000円

⑥分離長期譲渡所得金額

43,900,000円

(2) 被告が原告の昭和57年分の長期譲渡所得金額を右のとおり計算した根拠は,以下に述べるとおりである。

(一) 譲渡価額

原告は,昭和57年2月10日,訴外大西幸治に対し,別紙物件目録記載二の土地を29,000,000円で,訴外平田義和に対し,同目録記載三の土地を18,600,000円で各譲渡した。

(二) 取得費

措置法31条の4の規定により,原告の譲渡価額に100分の5を乗じたものである。

(三) 譲渡費用

イ 別紙物件目録記載二の土地の譲渡にかかる費用

原告が,訴外水野進に対し支払った仲介手数料200,000円及び訴外竹内豊に対し支払った土地分筆費用100,000円。

ロ 同物件目録記載三の土地の譲渡にかかる費用

原告が訴外平田義和との間で作成した売買契約書に貼付した印紙代20,000円。

(四) 特別控除額

措置法31条1項2号に規定されている長期譲渡所得の特別控除額である。

二 原告の別表5記載の債務の履行は,いずれも以下に述べるように法64条2項の適用はない。

法64条2項の規定は,保証債務の履行がなされ,その求償権の全部又は一部を行使することができなくなった場合に,その履行分について所得控除を認めるものである。

本来,保証債務の履行は所得処分の問題で,所得金額の計算上当然に考慮しなければならないものではないが,保証債務を履行するために資産を譲渡したことによって生じる所得は,いわば他律的に実現される所得で,保証債務の履行のため出捐した分が回収できなくなったときは,その分の所得がなかったのと同様の結果になる。法64条2項は,このような経済的実質に着目し,課税要件規定とは異なる政策的配慮から定立された例外的な課税上の租税減免規定で,租税負担公平の原則に反する効果がある。よって,その解釈に当たって狭義性,厳格性が要請される。

したがって,名義上の債務者を実質上の保証人と認め,法64条2項を適用するためには,単に債務者と保証人間に債務者を実質上保証人とする旨の合意では足りず,借入の経過,名義人,関係者の意思,利鞘等の経済的利益の収受の有無等を総合的に勘案して,債権者において名義上の債務者及び保証人間の実質関係並びにこの実質関係からすると当該貸付において保証人的地位にあると認められる者を形式上は債務者として遇していることを認識していることが必要である。

さらに,主債務者の資産状況等から保証債務の履行による求償権の行使がそもそも不能であることを知りながらあえて保証した場合には,保証人はあらかじめ求償権行使による回収をまったく期待していないので,実質的には当該保証人において主債務者の債務を引受けたか,あるいは主たる債務者に対して利益供与または贈与をしたとみなし得ることになるから,法64条2項にいう求償権の行使が不能になったときに該当しない。

三 本件に関して検討するに,国民金融公庫からの借入金は,訴外西川商事が主債務者で原告は保証人であるが,この債務の弁済のうち1,680,000円は昭和54年中に訴外西川商事によって弁済されており,昭和55年の不動産譲渡収入を源資とするはずはなく,原告が弁済したものでもない。また昭和57年に弁済された分は同じく保証人であった西川豪,西川勝則が弁済したもので,原告が弁済したのではない。そしてこの弁済分について原告がすべて負担するとの合意があったとしても,訴外西川商事は倒産が当初からかなりの蓋然性をもって予測されるという実態であったから,原告は求償権の行使がそもそも不能であることを知りながらあえて保証したものであって,法64条2項に規定する求償権の行使が不能になったときに該当しない。

相生市農業協同組合,播州信用金庫等からの借入は,実質的にも形式的にも原告あるいは西川豪を債務者とする借受で,そして西川豪を債務者とする借受については原告が弁済したと認められないから,法64条2項の適用は問題とならない。仮に,これらの借受について原告が実質的に保証人であって,しかも連帯保証人間において原告がすべてを負担するとの合意があったとしても,訴外西川商事の右実態からすると,原告は求償権の行使がそもそも不能であることを知りながらあえて保証したものであって,法64条2項にいう求償権の行使が不能になったときに該当しないことになる。

(原告)

〔反論〕

被告は法64条2項を厳格に解釈すべきであると主張するが,そのように解釈しなければならない根拠はない。租税負担の公平の原則からすると,法12条の実質所得者課税の原則は法64条2項の適用についても類推適用されるべきで,その適用については,単に当事者の選択した法律的形式だけでなく,その経済的実質関係に着目して,主債務者,保証人を定めるべきである。そうでないと,本件において原告が訴外西川商事のために借入をおこす場合に,実質的経済効果は同じであるのに,原告が連帯保証人になるのと主債務者となるのとで,課税上重大な差が生じることになって不合理である。

本件において,別表5記載の借受金はすべて訴外西川商事の営むナイトクラブの開店資金,運転資金に充てられたもので,国民金融公庫からの借入のみならず,その余の借受も借受名義人の如何に拘わらず,実質的主債務者は訴外西川商事で,会社の経理上もその旨処理されていた。すなわち,相生市農業協同組合からの借受金は,農業協同組合の建前上,組合員あるいは農業法人でない営利法人とは直接金銭消費貸借を締結することができないため,原告個人が借主とならざるを得なかったのである。播州信用金庫からの借受についても,国民金融公庫からの借受の直後であったため,同金庫の要望により従前から取引のある原告が借受名義人とならざるを得なかったもので,いずれも実質的借受人は訴外西川商事である。相生商事株式会社及び剛金興業からの借受についても,訴外西川商事と取引関係がなかったため原告が借受名義人となったものである。また,東洋商事株式会社等からの借受も同様の理由で西川豪が借受名義人となったが,実質的主債務者は訴外西川商事であった。そしてこれらすべての場合に,原告は保証人的地位にあり,かつ同様の立場にある西川豪,西川勝則及び三木義文との間において原告がすべてを負担するとの合意があった。よって,右債務の弁済は原告が保証人としての責任においてなしたもので,訴外西川商事は倒産し,求償権の行使は不能であるから法64条2項が適用されるべきである。被告は,原告が当初から回収の見込みがないのに保証人になったと主張するが,倒産が明らかなのにナイトクラブを営業する者はいないので,かかる主張は失当である。

第三証拠

証拠関係は,本件記録の書証目録欄,証人等目録欄記載のとおりである。

理由

一  原告に対する昭和55年分,昭和57年分の所得税の課税の経過,すなわち別紙物件目録記載の土地の処分により,原告に昭和55年に40,000,000円,昭和57年に47,600,000円の不動産譲渡による収入があったこと,原告の確定申告に対し,被告が別表1,2記載のとおり,昭和55年分の長期譲渡所得金額を31,702,543円,昭和57年分の長期譲渡所得金額を43,040,500円と算定したうえ,原告の納付すべき所得税額,加算税についての本件各処分をなしたこと,国税不服審判所長の審査決定の経緯については,当事者間に争いがない。

二  別表5記載の各債務の履行について,原告は法64条2項の適用を主張するので,以下検討するに,

1  成立に争いのない甲第1号証及び弁論の全趣旨によれば,別表5記載①の訴外西川商事の国民金融公庫からの昭和54年2月24日付け借受金について,原告が昭和55年に弁済したと主張する1,680,000円は,昭和54年内に訴外西川商事によって弁済されたものと認められるから,この1,680,000円の弁済は昭和55年の原告の不動産譲渡収入を源資とするものではないことは明らかで,当然この弁済に法64条2項の適用はない。(国民金融公庫に対する昭和57年の弁済については,後述する。)

2  国民金融公庫以外からの借受の借受名義人が原告もしくは西川豪であって訴外西川商事でないことは原告も争わないところ,原告は,これらの借受の実質上の借受人は訴外西川商事であり,原告は保証人的立場にあり,かつ関係者間に原告が最終的な負担をするとの合意があったとして,その弁済した額について法64条2項の適用があると主張するが,左記認定の訴外西川商事の実態に鑑みると,この各借受の債権者らが訴外西川商事を債務者としたことはなく,各借受名義人が実質的にもその債務者であったと認められる。

すなわち,前記甲第1号証,証人西川豪の証言により成立の認められる甲第15ないし第18号証,証人西川豪,同西川勝則の各証言並びに弁論の全趣旨によれば,訴外西川商事は,昭和53年12月22日設立された飲食業を目的とする資本金500,000円の有限会社で,代表取締役に原告,取締役に原告の長男西川豪,次男西川勝則,原告の甥にあたる三木義文が就任したこと,同訴外会社は,当時失業していた三木義文に相生市内でナイトクラブを営ませるために設立されたのであるが,その営業資金は,原告所有の農地をあてにしていたこと,このクラブは昭和54年2月25日に開店したが,この開店資金約30,000,000円も借入金で賄われ,そして,その後も実質的経営者の三木義文に経営手腕がないため,酒類の購入,ホステスへの給与の支払等に再三資金援助を必要とし,結局昭和54年10月末頃閉店倒産し,三木義文は所在不明となり,訴外西川商事も昭和58年3月30日解散の決議をしたこと,原告は農業に従事しており,老齢であり,西川豪,西川勝則は会社員で関東に居住していたため,西川豪がクラブの経理事務に若干関与したものの,原告,西川勝則はまったくこのクラブの経営に関係していなかったことの各事実が認められるほか,前記甲第1号証,証人西川豪,同西川勝則の各証言及び後掲の各書証(いずれも成立に争いがない。)によれば,右各借受の内容並びにその弁済の状況は以下のとおりであることが認められる。

(一)  別表5記載②の相生市農業協同組合関係

原告は,相生市農業協同組合から,西川豪,三木義文を連帯保証人として昭和53年12月6日に6,000,000円,西川豪,西川勝則を連帯保証人として同54年2月5日に3,900,000円をそれぞれ借受け,この債務を担保するために,原告所有の農地に原告を債務者とする抵当権設定登記をし,そしてこの各借受金の元本,利息の合計12,411,761円を昭和57年2月10日に弁済した(甲第7号証の1ないし4,乙第25,26号証)。

(二)  同表記載③の播州信用金庫関係

原告は,西川豪を連帯保証人として,播州信用金庫から昭和54年4月27日に3,000,000円を借受け,この債務に原告の別口の5,500,000円の債務とを併せた債務合計8,500,000円の債務を担保するために原告所有の土地建物に原告を債務者として根抵当権設定登記をし,そして昭和57年6月9日にこれらの元本,利息の合計7,534,833円を弁済した(甲第8号証の1ないし3,乙第16号証,第29ないし第31号証)。

(三)  同表記載④の相生商事株式会社関係

(1) 原告と西川豪は連帯債務者として,相生商事株式会社から昭和54年7月10日に2,500,000円を借受け,原告はこの債務を担保するために原告所有の農地に抵当権設定登記をし,そしてこの借受金につき,昭和55年3月11日に100,000円,同年5月2日に200,000円(以上いずれも西川豪名),同年6月18日に1,000,000円,同年7月18日に2,000,000円,同年11月10日に1,443,300円(以上いずれも原告名)の合計4,743,300円を送金等の方法で弁済した(甲第9号証の1ないし7,第10号証の1,乙第26号証)。

(2) 西川豪は,相生商事株式会社から昭和55年11月10日に600,000円を借受け,原告はこの債務を担保するために原告所有の農地に抵当権設定登記をし,そしてこの借受金については西川豪名で昭和56年12月26日に1,338,845円が弁済された(甲第10号証の3,乙第26号証)。

(四)  同表記載⑤の東洋商事株式会社関係

西川豪は,東洋商事株式会社(横浜市所在)から昭和54年4月14日に1,200,000円,同年5月7日に200,000円を借受け,この債務を担保するために同人所有の土地建物に同人を債務者とする根抵当権設定登記をし,そしてこの債務につき同年11月29日に2,130,000円を返済した(乙第21号証の1,2,第27号証)。

(五)  同表記載⑥の剛金興業(武本修行)関係

原告は,西川豪を連帯保証人として,武本修行(剛金興業)から昭和54年8月31日に5,000,000円を借受け,この債務を担保するために原告所有の土地建物に原告を債務者として抵当権設定登記をし,そして昭和55年3月5日から同年12月10日までの間に合計7,575,000円を弁済した(甲第11号証の1ないし6,乙第29ないし第31号証)。

(六)  同表記載⑦の宝生産業株式会社関係

西川豪は,宝生産業株式会社(東京都新宿区所在)から昭和54年11月29日に6,000,000円を借受け,この債務を担保するために同人所有の土地建物に同人を債務者とする抵当権設定登記をし,そして昭和55年2月15日から同年12月18日までの間に合計7,276,000円を返済した(甲第12号証の1ないし14,乙第27,第28号証)。

(七)  同表記載⑧の株式会社俵屋関係

西川豪は,株式会社俵屋(東京都豊島区所在)から昭和55年2月14日に1,000,000円を借受け,同人所有の土地建物に同人を債務者として根抵当権設定仮登記をし,そして同年3月19日から同年4月24日までの間に1,228,310円を弁済した(甲第13号証の1ないし3,乙第27,第28号証)。

(八)  同表記載⑨の木原勝郎関係

西川豪は,木原勝郎(東京都港区)から昭和56年2月26日に15,000,000円を借受け,この債務を担保するために同人所有の土地建物に同人を債務者として抵当権設定登記をし,そして昭和56年2月27日から昭和57年10月28日までの間に18,600,000円を弁済した(甲第14号証の1ないし6,乙第27,第28号証)。

訴外西川商事の実態,借受の内容,その履行の状況は右のとおりであるところ,証人西川豪,同西川勝則は,右各借受金はすべて前記クラブの設立資金,運転資金のためのもので,相生市農業協同組合からの借受は,組合員でなければ借受ができないため,そして播州信用金庫からの借受は,同金庫が設立したばかりの訴外西川商事への融資には応じなかったため,いずれも原告が借受名義人となったのであり,相生商事株式会社等は金融業者であるところ,訴外西川商事に信用がなかったことから原告あるいは西川豪が借受名義人となったが,いずれも借受名義人が何人であっても,実質上の借受人は訴外西川商事で,同訴外会社において弁済することができない場合は,最終的に原告が責任を負うことが関係者の間で合意されており,この合意に基づき右弁済は原告がなしたか,西川豪あるいは西川勝則が弁済をした分については後に原告から填補があったと供述し,甲第2号証,甲第3,第4号証の各1,2の訴外西川商事の貸借対照表,確定申告書には借受人が同訴外会社である旨の記載がある。

原告と三木義文との関係,前記甲第15ないし第18号証,証人西川豪,同西川勝則の各証言からすると,これら各借受金が訴外西川商事によるナイトクラブの開業資金あるいはその運転資金として使用され,さらにこれらの借受金につき原告が最終的に負担したものと認められる。

しかし,証人西川豪,同西川勝則の右各供述自体からも,これらの借受金はその借受名義人が実質的な借受人と窺われるうえに,訴外西川商事の昭和53年12月22日から同54年9月30日までの事業年分の法人税確定申告書である乙第23号証(成立に争いがない。)によれば,訴外会社は,国民金融公庫以外には原告からのみ借受がある旨税務申告しており,右各借受の当初において,訴外会社さらには原告自身が金融機関等からの借受金を原告が訴外会社に融資したと認識していたと認められるのである。さらに前記のとおり訴外西川商事は設立されたばかりで,かつなんらの資産はなかったのであるから,たとえ原告あるいは西川豪の農地,宅地建物が担保に供されても,そのような会社に相生市農業協同組合,播州信用金庫の金融機関,相生商事株式会社等の金融業者が貸付をすることは到底考えられないところである。

したがって,前記甲第2号証,甲第3,第4号証の各1,2の記載は採用することができず,右各借受はいずれもその借受名義人が実質的にも借受人であったといわざるを得ず,これらの借受人は訴外西川商事であって原告は保証人として弁済したとの原告の主張は理由がない。

なお,相生商事株式会社からの原告の借受のうち2,500,000円の借受分は原告と西川豪が連帯債務者,600,000円の借入分は西川豪が債務者,原告が物上保証人(抵当権設定者)となっているが,前記の訴外西川商事設立の経過,原告と西川豪の関係に鑑みると,両者の間では,借受の負担は原告がすべて負うことになっていたと考えられるから,原告の出捐で弁済しても,原告から西川豪に対する求償権は発生せず,したがって,右借受についての原告の弁済についてもやはり法64条2項の適用はない。

よって,原告が連帯保証した訴外西川商事の国民金融公庫からの昭和54年2月24日付け借受金についての昭和57年の弁済以外の別表5記載の各借受金の弁済についての原告の主張は理由がない。

3  別表5記載①の国民金融公庫からの借受金についての昭和57年の弁済について検討するに,この借受は訴外西川商事が主債務者で,原告,西川豪,西川勝則,三木義文が連帯保証人となっているところ,成立に争いのない甲第6号証の3ないし6,証人西川豪,同西川勝則の各証言によれば,この借受金につき,いずれも西川豪が昭和57年12月6日に250,000円,同月7日に450,000円,同月8日に200,000円,西川勝則が同月7日に600,000円,合計1,500,000円をそれぞれ弁済していること,その後,原告が同人らに右出捐分の填補をしたことが認められるところ,前記の訴外西川商事の設立経過,同人らと原告の関係に鑑みると,右保証人ら間では,借受の負担は原告がすべて負うことになっていたと考えられるから,訴外西川商事の倒産により原告は右1,500,000円の支出について保証人としての求償をすることができなくなったというべきである。

被告は,訴外西川商事の実態からして,原告は求償権の行使が不能であることを知りながらあえて保証したものであると主張するけれども,右借受が同訴外会社がクラブを開店した直後になされたことからして,この時点で,このクラブがかなりの蓋然性をもって倒産することが予測されたとは考えられない。そうすると,右1,500,000円については,法64条2項により所得がなかったものとみなすべきである。

三  以上検討の結果によれば,本件各処分のうち昭和55年の分離長期譲渡所得金額の算出に当たって原告主張の弁済額を控除しなかったことに違法な点はないが,昭和57年の分離長期譲渡所得金額は,右1,500,000円を控除すると42,040,500円となるのに,これを上回る43,040,500円とした点で原告の所得を過大に算定した違法がある。そのほかの違法事由の主張立証はない。

よって,本訴のうち昭和57年の被告の処分に対する請求は,右の趣旨で一部理由があるから,その限度で認容し,その余及び昭和55年の処分に対する請求は理由がないから棄却し,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法89条,92条本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 林泰民 裁判官 岡部崇明 裁判官植野聡は転勤のため署名押印をすることができない。裁判長裁判官 林泰民)

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